●いかにダイナミックレンジを稼ぐか
アナログテープなどと違い、DATやMDのダイナミックレンジは16bitと、常に一定です。この限られた中にいかにして情報量を詰め込むか、これがキーになってくるような気がします(あくまでも僕が勝手にそう思っているだけなので、いつもに比べるとちょっと控えめな言い回し)。というわけで、今回はなんとか常にダイナミックレンジをいっぱいまで使おうと、あの手この手を試してみました。
●各音域にコンプをかける
まず、誰でもやってみるのがコンプを一台買ってきて、トータルにかけるというやり方でしょう。しかし、これはなかなか難しい。下手をすると揺れてしまったり、こもってしまったり、低音が強調されるだけになってしまったり。そこで、ソースをハイ、ミッド、ローの三帯域に分け、それぞれにコンプをかけることで他の帯域に影響を与えず最適なコンプ処理が施せるのではないかと、そう考えたわけです。というわけで、まず手持ちのM-160とProMix01を図のようにセッティング。

このセッティングが何を意味しているかというと、結局M-160のステレオミックスを3系統出したかったのです(ProMixのCh1,2、Ch3,4、Ch5,6には全く同じ物が入る)。続いてProMixのイコライザをセッティング。Ch1,2はハイとミッドを落としてローだけに、Ch3,4はハイとローを落としてミッドだけに、Ch5,6はミッドとローを落としてハイだけにします。あとは入力した3系統それぞれにコンプをセッティング(もちろんフェーダーの後(Post)で)。さてさて、そしていよいよ入力・・・いろんなデータを再生してみると・・・。
うん。これはかなり効果アリ。特にリズミカルな曲には。ところがやっぱりジャンルを選ぶようで、しかりとコードが入っている曲などはやっぱり揺れが目立ってしまいますね。そういう場合でもロー(Ch1,2)だけにコンプをかけるというのは使えますね。しかし、この場合それの倍音成分とのバランスをとるのが非常に難しく(すぐ低音がこもったような感じになってしまう)、しかもそんなことをするなら最初っからドラムとベースをパラアウトしてコンプかけたほうが手軽だし、音がこもる心配もないし、いいような気がします・・・。というわけでこの手はブレイクビーツを作るときのような、音の加工には使えるセッティングだと判断しました。
でも3帯域に分けたまでは正解かもしれません。高音域だけにリバーブをかけるなどすれば、かちっとした低音を残しながら高音域に広がりを与えたりできましたから。
●ドラムとベースをパラアウト
というわけで定番ながらドラムとベースを分けて見ました。図にするとこうなります。

ドラムとベース以外はM-160で一度まとめてProMixのCh1,2に入力、そしてベースはCh3,4、ドラムはCh5,6に入力します。分かりやすいですね。ドラムとベースをパラアウトする事は非常に一般的で、ミックスを考えるより音作りという過程においてよくやるのですが、今回はミックスのためだけを考えてやることにします。
全ての音の中でドラムとベースはほとんど低音を支配していると思うので、こいつらをうまく制御してやれば低音をうまくある幅の中に収め、他の帯域を犠牲にすることもないのではないか、と考えて・・・とりあえずそれぞれにコンプ処理を施してみました。ところが、これがなかなかうまく行かない。なんというか、ベースに関しては全く音が変わってしまうし、ドラムも逆にエキスパンドされたような(これはProMixのコンプが変なのが原因とも言えなくも無い)、とにかくあまり良い結果は得られませんでした。・・・ここで終わっておけば良かったものの、僕のワガママな性格が次のような変な実験をさせてくれました。
☆ドラムをコンプのキーインにして、トータルにコンプをかける
つまり、ドラムを十分前に出しながら、トータルも聞かせたい、つまり、ドラムとトータルが常に出るべきところで出るようになるかな、と思ってやってみたのですが・・・。駄目ですね。ドラムのレベル変化が激しすぎるため、非常に調整が難しい。シンバルなどが鳴る場面では特にひどいです(さらにシンバルを別にすればよかったのか?)。というわけで、これは失敗でした(もっと細かく調整すればよかったのかもしれませんが)。
☆その他もろもろ(笑)
一個一個書こうかと思いましたが、失敗談並べても仕方がないのでやめます。
☆唯一の成功
どうも各音のキレが悪いので高域を上げてみたりというのは誰でもすると思うのですが、これをすると場合によってはハイハットなど、特に高域に属する音がシャリシャリいいだしてしまったりします。ドラムをパラアウトしておくとドラム意外の高域だけ上げる事ができるわけで、そこにはやはりメリットがありました。ドラムの音はそのままに他の音をくっきりと。これは成功(でもあまりに普通・・・すべての音をProMixにつないでいた頃は既にそうしていましたし)。
でも、ベースとドラムのミックスは常に大切ですよね。低音の量感を求めて無意識のうちにベースやキックの音を大きくしすぎたというのもよくある話だと思うのですが、僕の場合は最近低音は必要最小限まで小さくするようにしています。やっぱり低音を大きくしてしまうと容赦なくダイナミックレンジを食い、結果として中高域の音量を絞らなければならなくなります。すべての音をほどよく出すにはあまり低音を出し過ぎるわけにはいきません。また、このあと録音レベル設定についての話題を書くことになると思いますが、そこにも低音があまり出せない理由があります。
●録音レベルの設定
前回問題にしていた録音レベルの設定の続きです。
CDを再生し、レベルメーターを見ていると、常に最大0dbであると書きましたが、これをパーソナル機材で実現しようとしたとき、どうすればいいのか。答えは簡単、瞬間的に飛び出している波形を無理矢理ダイナミックレンジ内に収めるようなコンプ、リミッターをかければいいのです。しかし、先にも書いたように普通にトータルコンプをかけると、どうもうまくいかない。僕の考えでは、コンプのアタックタイム(コンプがかかりはじめるまでの時間)がマイナス(後で送られてくる波形をあらかじめ入力する、すでに波形全部を読み込ませたコンピューター上で処理するなどすれば可能)でなければ、理想的なトータルコンプ処理は出来ないはずです。これはその辺で出回っている普通のコンプではできそうもありません。そこでこれと最も似た効果を探す事になるのですが、アタックタイムマイナスのコンプはリアルタイム処理不可能ですが(少なくともディレイが生じる)、ゼロアタックタイムのコンプなら実現可能。実際そういう機材もでまわっているようですが、とりあえず手元にはありません。う〜ん・・・。
しかし、実はほとんどの人が利用できるアタックタイムゼロ、レシオ最大のリミッターが存在します。それは、DAT、MDデッキです。これらの入力をオーバーレベル気味に設定する事で、多少乱暴ではありますが余計と思われる、瞬間的にダイナミックレンジから飛び出した波形を16bit内に収める事ができるのです。絵にしてみると、こんな感じです。

(a)録音前

(b)録音後
録音レベルを赤い線の所にセットすると(a)、録音中はオーバーレベルだ表示されると思いますが、結果として録音される波形は(b)のように、録音レベル以上の入力はすべて録音レベルまで落とされています。つまり、瞬間的に飛び出している波形だけオーバーレベルになるように録音レベルを設定する事でダイナミックレンジを無駄なく使う事ができるのです。これは、明らかに変調がかかっているということなのですが、この変調の影響を受ける音が高周波、無音程なほど(例えばシンバルのような音)、聞こえ方にほとんど影響はありません。逆に低周波で音程のある音ほど(例えばベース)、変調の影響を受け、まるで聞こえ方が変わってしまいます。先に低音の音量をあまり上げ過ぎない方がいいと書いたのはこのためで、低音を必要以上に出してしまうと、たいして録音レベルを上げないうちに低音の波形が先ほどの赤いラインに触れてしまい、その時鳴っている高周波を半波が失われるほど変調させてしまいます。
●今回の結論
今回も、何の確証もない事をつらつらと書いてしまいましたが、結局低音をあまり出し過ぎないよう、ほどよく全帯域を出して、多少オーバーレベル気味に録音する事でかなり良い結果が得られるということが分かりました。
しかし、ADコンバーターの中には上記のようなリミッター処理を行ってくれないものも多く存在します。例えばSound Blasterなんかもそうで、オーバーした分は反対側から現れてしまい(b)、いわゆる、デジタル歪となってしまいます。これは、アナログ歪(c)と比べてもかなりイヤな音で、ジリジリ、というようなノイズとして聞こえてきますのですぐ分かると思うのですが・・・つまりこういうADコンバーターにおいては上記のようなテクニックは使えないという事です。まあ、DATやMDにはこのようにひずんでしまうものはあまりないと思いますが、CD-RでCDを作るときなど、マスタリングをPCで行うような場合には注意して下さい(そのような場合はまずオーバーレベルしないように録音し、後で波形編集するべきでしょう)。

(a)元の波形

(b)デジタル歪(オーバーレベルの波形は反対側から出てくる)

(c)アナログ歪(一瞬ショートして電圧が下がり、また戻る)