音楽機材探求 #8<音の圧縮はアリか?>


 さてさて、最近はCD制作のためレコーディングをしているのですが(詳しくはCDニュース#1参照)、やはりここで一番大変なのは歌どり。なんといっても自宅録音なわけで、こんなところで思いっきり歌うなんて恥ずかしすぎて考えたくもないわけです。

 そこで、手軽に持ち運べるレコーダーを買って、レコーディングはどこかのスタジオでやろう、ということになるのですが、この手のレコーダーはMDを利用したものやハードディスクレコーダーでもVS-880、840など、音を圧縮するものがほとんど。果たしてこの圧縮はアリなのでしょうか。

圧縮技術を検証
 通常我々が目や耳にする形のデータには必ずムダがあるため、これらは圧縮することができます。現在の圧縮技術はデジタルの普及にともない急速に伸びてますし、MDなどに採用されている圧縮方式も、少なくとも人間の聴覚上はまったく問題ないものでしょう。あまりはっきりしたことはいえませんが、これらに採用されている圧縮方式はおよそ次のようなものだったと思います。

1)入力音をある長さに区切り、それを周波数で分解。
2)各周波数成分を比較し、必要なものから優先度をつける(信号全体のレベルにたいして小さすぎる成分、ある大きい成分の周りの周波数の成分は人間の耳には聞こえないので優先度が低くなる。この判断基準となるレベルは各周波数帯により異なる(高音は中域よりは聞こえにくい、など))。
3)優先度の高い方から(ビットレートの許す限り)データとして記録する。

 本当は、時間軸上でマスクされる音も捨てたり、圧縮率を可変にしたり(優先度をつけるのではなく本当に必要な音だけを記録)、曲全体を見た圧縮を行うことによって、さらに圧縮率を高くすることができるのですが(もちろん人間にはほとんど分からないレベルで)、まだ今のところレコーダー関連の製品には採用されていないようです(それが可能になればクラブ系のループしまくる曲なんか1/50くらいまで劣化無しに圧縮可能かも(笑))。

圧縮された音を試聴
 さて、この圧縮によってどの程度音が変わるのでしょうか。試しに、ある曲を、片方は一度MDを介し、もう片方は非圧縮で取り込み、パソコン上で切り替えながら聞いてみました。結果は、特に小さくて目立たないような音に注目して聞いていると違いが分かるという程度のもので、切り替えを行わず一曲流して聞いて分かるようなレベルではありませんでした(実際これを書いている段階で、本当に違いが分かったのか?とか聞かれるといまいち自信がないくらい分からなかった(^^; 僕の耳が悪いの?それともスピーカーが悪いの?アンプが悪いの?聞いた音量が悪いの?部屋が悪いの?ヘッドフォンが悪いの?)。

 はっきりいってこの程度の劣化を問題だというのはナンセンスではないかと思います。しかも、この変わってしまった音というのが、圧縮そのものによるものなのか、圧縮されたものを展開する時、元の音にはなかったオーバーレベルが発生していたのか、デジタル転送中にわずかに混入したエラーを補正した時のものなのか、はたまた使ったMDデッキ自体の信号処理方法に問題があるのか、僕にはとても判断できません(専門家ならその音の変わり方によって何が原因なのか分かるのかもしれませんが)。

 結局、音が変わるとはいってもその程度のものであるということです。これのおかげで通常の4〜5分の1のデータ量で録音できると思えば、ぜんぜんOKでしょう。まして、フルデジタルでやるわけでもないのなら、他の部分での劣化の方が大きいと考えるのが自然で、圧縮による劣化など考えるだけ無駄であると言えます。

では、圧縮してよいの?
 昔、RolandのVS-880対抗機種がそろって圧縮を否定した時期がありました。中には「圧縮によって音の魂が失われる」などと広告しているものもあり、仲間内で大笑いしていたのを覚えています。・・・しかし今回、昔MDに録音したものを加工していて、分かったことがあります。それはこれまでまったく気づきもしなかった、圧縮に関する致命的な問題だったのです!!!(←やや大袈裟)。

魂は失われていた(笑)
 そう、魂は失われていたのです(笑)。上記のような圧縮技術は暗黙のうちに、圧縮展開後加工されないことを前提としているわけで、その後加工をするようなら予想以上に音質が変わってしまのは理論からしても明白なのです。どういうことかといいますと、先ほど圧縮方式の解説をしたとき、人間の耳には聞こえない周波数成分を捨てるということを書きました。ここで、なぜこの音が人間の耳に聞こえなかったのかというと、他にその音を聞こえなくしているレベルの高い成分が存在したからです。イコライザでレベルの高い周波数を小さくしたらどうなるでしょう?逆に捨ててしまったデータの周波数成分を大きくしたらどうなるでしょう?捨ててしまったデータが聞こえるような状況になるかもしれません。しかし、聞こえるはずの音はもうそこには存在しません・・・(あまり大きく加工しなければほとんど関係ないのでしょうけど・・・)。

 つまり、周波数圧縮して録音したものをイコライザで補正しようとした場合、失われた成分はもうどんなにツマミを上げても戻ってこないのです。時間軸圧縮されたデータも、恐らくコンプレッサーなどダイナミクス系の処理を施した場合に問題が発生することになるでしょう。これは、レコーディングという用途を考えた場合大問題であると言えます。

 これまで僕はマスタリング前の2トラックマスターにMDを使っていました。それは、最新のMDの圧縮方式であるATRAC4.0以降が、ダイナミクスレンジ24bitでの圧縮を行っており、もっとも手軽な24bitマスターだと考えたためだったのですが、これは大変な間違いでした。非圧縮でパソコンに取り込んであったものと加工後の音質を比べるとその差は歴然も歴然。マスタリング後の完成形をMDに残すというのはアリでも、その過程にあるものを一旦MDに録音しておくなどということは、とんでもない話だったのです。マスタリングまで行ってくれるCDプレス屋さんがMDを受け付けていないのにもうなずけます。圧縮は、本当の意味での最終段階まで行ってはいけなかったのです。

圧縮反対(笑)
 というわけで、Frieveの圧縮失敗談でした(笑)。おかげで昔レコーディング曲のうち、何曲かはレコーディングし直すことになりそうです(あ〜なんてこった)。さてさて、最初に書いていた歌どりについてですが、結局持ち運びできるレコーダーを購入することもなく、昼間アパートで大声出して歌ってま〜す。キャー恥ずかしい(笑)。ちなみにここまではっきり圧縮を否定した今回の記事ですが、内容に保証は持てません、念のため(笑)。
 あと、今回CDを制作するにあたって他にもいろいろ分かったことがあるので、これから順次取り上げていきたいと思います。